エピローグ |
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そろそろ腰を上げようと、最初に言ったのは誰だっただろう。大公宮殿に滞在している私達の元には、ソードコースト中の貴族達が面会に訪れ、夜ごと豪華な晩餐に招待された。町を歩けば誰もが笑顔で挨拶してくれる。プロポーズの手紙は、もう何百通、いや、何千通受け取っただろうか。私だけでなく、イモエンやブランウェンにまで山のようなラブレターが連日届けられる。カイヴァンやコランの行く手には若い娘達がいつも群がり、イェスリックは子供達に「優しいおじちゃん」としてすっかり慕われている。
だが・・・
「バールの子」である私を巡って、一部の市民や貴族達が騒ぎ始めた。サレヴォクがいない今、私が奴のようにならない保証はない、というわけだ。その騒ぎの元となっている連中のほとんどは、私に結婚を申し込んで断られた男の親だったり、カイヴァンに袖にされた貴族の未亡人が腹いせに騒ぎ立てたり、そんなものだった。それでも、声が大きくなるにつれて大公達の力だけで押さえることが難しくなってきていた。エルタン大公も、リーア大公も、ベルト大公も、みんないい人達だ。だからこそ、彼らを苦しませたくはない。それに、この町が私の安住の地になることはないだろうというのは、うすうすと感じていた。私がこの町を出るときが来たのだ。そう心に決めたとき、不思議なことにみんなが同じことを言い出した。イェスリックはもう一度鉱山に戻ると言った。
「中にはもう入れんがな。入口にある建物を少し直せば、1人ぐらいは住めるじゃろう。坊主として、あの鉱山に眠る仲間の霊を弔っていくよ。」
「君のおかげでタゾクを討ち果たせた。そしてソードコーストの危機をも救うことが出来た。本当にありがとう。」
差し出されたカイヴァンの手を、私はしっかりと握り返した。これからカイヴァンは、元いた森に戻るそうだ。そこでしばらくこれからのことを考えたいのだという。そしてブランウェンは1度故郷に戻ると言った。
「女の身で僧侶となったからには、多分故郷で受け入れてもらうことは出来ないと思うの。でもあの場所は私の故郷だもの。1度帰って心の整理をつけたら、もう一度冒険の旅に出るわ。」
もしかしたら、ブランウェンはカイヴァンの元を訪ねるのではないかと思ったが、口には出さなかった。みんながこれからの道を考えているとき、コランだけがそわそわしている。てっきりブリエルバラの元を訪ねるのではないかと思っていたのだが・・・。
「子供にはこれからも会いに行くさ。だがその・・・彼女と結婚というわけにはいかないだろう。考えてもみてくれ。彼女は人間、私はエルフだ。結婚したところで、いくらもいっしょにいられやしないし・・・。」
そこまで心が決まっているのなら、私達が口出しする筋合いではないのだが、イモエンはその言葉を聞いて何か思い当たったらしく、ニーッと笑った。
「ははーん、コラン、あなた、ずっと前に海岸で会った、あのサファナとかいうシーフに会いに行くつもりなんでしょ?」
コランがぎょっとしてイモエンをみた。
「あらら、図星なのねぇ。ふふふ、わかってるわよ。あの女もけっこうまんざらでもなさそうだったし。」
「でもあの人も人間よね。」
「そうよねぇ。」
「これこれ、あんまりいじめるものではないぞ。いいじゃないか。エルフとしてはまだまだ若者だ。いい女に心がなびくのは自然のことじゃて」
「お、おい、ドワーフ殿まで・・・」
思わずみんな笑い出した。そしてその笑顔のまま、私達は大公宮殿を出て、バルダーズゲートの門を通って外に出た。大公達は引き留めてはくれたが、どこかでほっとしていたような気がする。でもその気持ちを責めることは出来ない。
「では元気で。」
「また会いましょう。」
「そのうち訪ねてくれよ。」
「そ、それじゃまたな、みんな。」
「さようなら。みんな、本当にありがとう。元気でね!」
4人の背中が遠くなり、橋の向こうに見えなくなった。
「また2人になっちゃったね。」
イモエンがぽつりと言った。
「そうね。どこに行こうか。」
「どこでもいいわ。そこが家と呼べる場所なら。・・・ふふふ、でもきっと難しいわね。」
「そうねぇ。まずはベレゴストかな。また何か仕事があるかも知れないわ。」
「そうね、行こうか。」
2人で橋を渡り始めた。橋の向こうに人影が見える。でもたった今別れた仲間達ではないようだ。
「やだなあ、また刺客?」
イモエンがうんざりしたように言ったが、そうでないことがすぐにわかった。
「おぉ!正義の味方が戻ってきたぞ!おーい!!このブーとミンスクが、頼もしい助っ人を連れて正義の味方の手助けをしに来たぞ!」
両手を挙げてブンブン振っている大男、そのとなりで微笑むローブ姿の女性と、笑顔で私達に手を振るふたり・・・あれは・・・!
「アデル、あれ、ミンスクとダイナヘールよ!ジャヘイラとカリードもいるわ!」
懐かしい顔に向かって、私達は駆けだしていた。
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